原作漫画も読んだので改めて感想を書いてみる。今度は激しくネタバレなので注意な。ネタバレなしの感想はこちら。
“B 級映画”とは
原作漫画の感想として必ず上げられるのが「B 級映画のような漫画」というフレーズ。そもそもこの言葉はどういう意味なのか。
B 級映画(びーきゅうえいが)とは、短期間撮影の低予算で製作された映画のことである。そのため、単に質の悪い映画を指すこともある。B 級映画の定義は曖昧であり、人によってはその解釈が異なるのが現状である。
対義語は「A 級映画」であり、破格の予算と制作期間をかけ、なおかつ、芸術性のあるテーマを持った作品がそう呼ばれる1。
これに対して、「A 級映画」の前座となるべく制作された低級・低予算映画が「B 級映画」な訳だが、映画の複数同時上映が無くなってしまった現代2では「前座」自体が必要ではない。
そんなわけで、「B 級映画」の定義も非常に曖昧になってしまった。必ずしも「B 級」が「A 級」に劣るわけではなく、逆に「B 級映画」であることを目指して作られる映画が出てきたのだ。
“A 級”だった前半
前置きが長くなった。「いばらの王」の原作漫画についてである。
この作品は、原作者自体が「ノリとしては低予算のハリウッド映画みたいな感じ(コミックス 1 巻)」と言っているように、冒頭の展開は B 級パニック映画のそれである。
それが斬新で独創的な舞台設定や、丁寧な人物描写、息もつかせぬアクションシーンによって、一級のエンターテイメントと言える作品となっていた。
近年で言えば「クローバーフィールド」、ごく最近で言えば「第 9 地区」(レビュー)と似た感じであろうか。“B 級”の素材をちょっと変わった視点から描くことで“A 級”に料理したような、そんな作品に思えたのだ。少なくとも中盤(4 巻の中頃)までは。
問題の後半
そこで満を持して「ゼウス」の登場だ。
この黒幕はどうにも安っぽくてステレオタイプな悪役の域を出てはおらず、危機感が一気にスケールダウンしてしまう。ゼウスによって世界が破壊され、彼の生み出した“神軍”(獣人)と登場人物が戦い始める辺りからは、なんだか別の作品のよう。多くの読者は「アレ? これファンタジー漫画だったっけ?」と困惑してしまうだろう。
でも、だからといって漫画の質が落ちるわけではない。“神軍”やキャサリンの“鳥”のデザインは秀逸だし、格闘シーンも手に汗を握る。ゼウスは悪役としての魅力がいまいちだが、そのおかげで、彼を倒して迎えた大団円が爽やかだったのも確かだ。
思うに後半の、この展開こそが作者の考える“B 級映画”だったのではなかろうか。
悪役は悪役らしく倒されて、最後はめでたくハッピーエンド。なんか色々難しい設定はあったけど、みんなが幸せなら細かいことはいいよね!みたいな。
これも別に悪くない。むしろ、これこそがエンターテイメントの王道だったのだ。
“A 級”な映画を目指して
打って変わって、今回の映画は“B 級”ではない。
ゼウスは存在自体が無くなって、マルコを始めとする登場人物には悲劇的なバックストーリーが加えられた。後半は謎解きとカスミ & シズクの内面描写が主体であったりして、今時のセカイ系(もう古い?)映画を思わせる作り。ラストもハッピーエンドとは言えない終わり方だが、こちらの方が余韻がある。
どちらかというとマニアこそが好みそうな原作後半を再構成したことで、映画はより一般層に訴求できる良作になったと言える。ストーリーが色々と説明不足だったり、所々 CG に粗があるのは問題だが、あの原作を映像化したことを考えるとまず成功と言っていいのではないかな。
最後におまけ
話は変わるがこの漫画、外人さんに人気らしい。「king of thorn」で検索してみたら出るわ出るわ……(Deviant Art 検索、Youtube 検索)。
前半のいかにも“ハリウッド”な展開が受けたのだろうか。日本でもマイナーなこの作品が、海外での公開でどれほど成功するのか、ちょっと楽しみである。
初めまして。綺羅と申します。
『いばらの王』感想を拝見し、納得出来た事に嬉しくなり、コメントさせて頂きました。
原作を知っている人の評価の殆どが“B級”であったので、その事をずっと疑問に思っていました。
後半のキャラクターが出てこない故であることは理解しておりましたが、根本的な“見方”の違いが所以だったのですね。
そして“B級”と”A級”の定義も興味深いものがありました。
様々な価値観が乱立し、良くも悪くも定義が曖昧な現代。
自身にとってより深い価値観を“模索”が現れている。
そんなことを悶々と考えてしまいます。
映画『いばらの王 -King of THORN-』感想
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『いばらの王』オフィシャルサイトhttp://www.kingofthorn.net/
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