旧「漢語林」が最強過ぎる件


地震やら原発やら何やらでだいぶ更新が滞っていた。いつもの趣旨とはかなり違うが、前に書いた日記が残っていたので載せておく。

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昔々……

祖父が生きていた頃は書道教室をやっていて、その家には様々な漢籍や、戦前に刊行された分厚い辞典が置いてあった。それは、小学校で使う教育漢字レベルの辞書とは比べようもない迫力があり、子供の時分は祖父の家に行くたび、その辞典を眺めて時間をつぶしていた。

漢和辞典を引くこと

大人になってからも、漢字が好きで、(古代)中国が好きで、読む本も歴史小説・時代小説ばかりである。特に、宮城谷昌光氏の小説は使用されている漢字が難しい。ふりがなは振られているし、難しい熟語が多いわけではないのだが、単純な訓みに普段では全く使わない漢字が当てられているのだ。例えば、手元の本を適当にめくってみると……

  • 山が黝(あおぐろ)い濃淡となって浮きあがってきた。
  • 楽毅の耳の中で音が殞(お)ちた
  • 雲に馮(の)ったようだ。

ふりがなはあるから読めはするが、漢字の意味が全く分からない。調べるには漢和辞典が必須で、手元にないときにはメモしておいて後で調べたりもする。

という話を知人にすると、「iPhone 持ってるんだから、その場でネット辞書見ればいいでしょ。」と突っ込まれた。確かに、“限られた時間でなるべく多くの本を読むこと”が目的ならば、僕のやっていることは無駄が多い。

でもね。仕事でやってるわけでもないんだし、“本で使われている漢字を辞書で引く”という行為自体が、僕にとっては至上のエンターテイメントなわけですよ。だって、紙の辞書ならその漢字の用例も豊富に記載されているし、字の成り立ちや典拠もよくわかる。本の作者がなぜその漢字をそこに選択したのか、電子辞書風情では類推すらできないよ。

やっと「漢語林」

このように力説しても知人は曖昧にうなずくだけだったが、それはまあいい。前置きが長くなった。上に写真を挙げたのは高校時代から愛用する漢和辞典「漢語林」である。

長々と書いたとおり、僕は別に漢籍の専門家ではない。だから、カバーがすり切れてテープで補強するほどになっても使い続けているのは、収録語数の多さとか、監修者の思想に惹かれたとかいう理由ではない。この辞典を離れられない理由はただ一つ。

四角号碼索引があること。

これに尽きる。

四角号碼とは

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四角号碼索引とは何かというと、

「四角号碼」は、部首・画数・筆順・音・意味などにとらわれず、純粋に漢字の四隅の字画の形に基づくコードによって検字しようというものです。

http://www.seiwatei.net/chinakan/inpsj.cgi

まず、漢字の字画について、0 から 9 の 10 種類に分類し、それぞれの漢字の四隅(+1)がどの分類に当たるかをもって区分けする。慣れてくると漢字を見て数秒で 4 桁(あるいは 5 桁)の数字が思い浮かぶようになり、それを持って索引を使うと驚異的なスピードで辞書を引くことができる。詳しい分類法は割愛するが、例を挙げると、

  • 「黝」→「64327
  • 「殞」→「16286
  • 「馮」→「31127

このように、字画によって全く違った数字が割り当てられていて、重複が少ないのだ。これ見ると、部首索引とか画数索引とかがどれだけ効率悪いか分かるよね。

でも……

とにかく便利な四角号碼索引なのだが、普及価格帯の漢和辞典でこれを載せているものは非常に少ない。この「漢語林」でさえ、載せているのは 1990 年発行の旧版のみであり、2004 年発行の「新漢語林」では削られてしまったのだ。苟も、かの偉大な「大漢和辞典」を出した大修館書店をして、この画期的な索引を広める気がないというのは理解に苦しむところである。

中高生が漢文の学習するのにも、この索引はぴったりだと思うんだがなあ。少ない努力で辞書を引く速度が数倍から数十倍になるわけですよ。もっと色んな辞書に載せてね! 各出版社の方々!

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